描きながら考える。
情けないことに「何を描くか」という主題さえ持ち合わせていない。白い画布を前に焦燥が勝り、とりあえず描き始める。/例えば、幼児のなぐり描きのように、無秩序のようでありながら自分の腕の意志を持ち、この瞬間の生が乗り移ったような筆致でありたい。
描きながら考える。
私の中の片方が「黒の形を!」と言えば、もう片方が「光に向かえ!」と指令する。絵の中で不穏と祝祭が相克する。/私が絵を志した1974年、兄が五浦の六角堂のそばで死んだ。2007年、六角堂に絵を展示する機会に恵まれ、花を描いた。
描きながら考える。
完成は不意に訪れる。静寂に包まれ、全体が「自然」に見える。/森に例えてみよう。遠くから見る森は、緑の変化や大気による奥行きなどで目を喜ばせてくれる。一歩、森に入れば木々の枝葉、鳥や昆虫、草や地面など、不快な棘や毒も含め、感触を伴い実在する。絵画は両方の経験を含むものでありたい。
「6つの個展 2020」図録より (茨城県近代美術館発行)

NIRO NOZAWA
抽象絵画を制作しています。 私にとって制作とは、描いたり消したりの試行錯誤の中で、行くべき方向を探る活動です。 あらかじめ完成のイメージがあるわけではありません。 混沌とした状態の隙間から、霧が晴れるように唐突に現れる風景。 結果的に描きたかったものを知ることになります。

野沢二郎 (のざわにろう) 略歴
1957 茨城県に生まれる
1982 筑波大学大学院芸術研究科修了
1988 第3回ホルベイン・スカラシップ奨学生
2010 明星大学教育学部教授
1979 個展「風景いくたび」(筑波大学会館ギャラリー) 以後,コバヤシ画廊(銀座/2000年からほぼ毎年),ギャラリー・パリ(横浜/2016年から隔年),ギャラリーしえる(水戸/2009年から隔年2019年まで),ほか、殻々工房(那須)、クリエイティブ・ハウス・アクアク(つくば)、ルナミ画廊(銀座)、ギャラリーなつか(銀座)、Shonandai MY Gallery(六本木)などで個展
1996「いばらきバイアニュアル・ディアロゴス1996 “現代性の条件”」(水戸芸術館現代美術ギャラリー) 1997「VOCA展'97〝現代美術の展望・新しい平面の作家たち“」(上野の森美術館)
1997「第8回アジアン・アート・ビエンナーレ・バングラデシュ(ダッカ),優秀賞
2004「第23回損保ジャパン美術財団選抜奨励展(損保ジャパン東郷青児美術館)
2007「六角堂展/野沢二郎・三つの絵画」(茨城大学五浦美術文化研究所・岡倉天心遺跡)
201 1「第1回宮本三郎記念デッサン大賞展」(小松市立宮本三郎記念美術館)
2012「野沢二郎-花弁/近景の水-Flower Petals/Closeup Water View」(いわき市美術館)
2012「抽象と形態・何処までも顕れないもの」(DIC川村記念美術館,千葉) 2013「二年後。自然と芸術,そしてレクイエム」(茨城県近代美術館) 2014「水のシンフォニー/形なき水に形を,色なき水に色を」(茨城県天心記念五浦美術館)
2014「作家とアトリエ展/作品を生み出す身体,創造の場」(茨城県近代美術館)
2018「野沢二郎展/水・大気・絵画の表情」(常陽藝文センター,水戸) 2020「6つの個展」(茨城県近代美術館) 2023「美術にみる〈農〉の世界」(茨城県近代美術館)
